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 今昔物語集


   検非違使忠明

  今は昔、忠明といふ検非違使ありけり。若男にてありける時、清水の橋殿にして、 京童といさかひをしけり。京童、刀を抜きて、忠明を立てこめて殺さむとしければ、忠 明も刀を抜きて、御堂の方ざまに逃ぐるに、御堂の東の端に、京童あまた立ちて向かひ ければ、その傍にえ逃げずして、蔀のもとの有りけるを取りて、脇に挟みて、前の谷に 躍り落つるに、蔀のもとに風しぶかれて、谷底に鳥の居るやうに、やうやく落ち入りに ければ、そこより逃げて去にけり。京童は谷を見下ろして、あさましがりてなむ立ち並 みて見ける。  忠明、京童の刀を抜きて立ち向かひける時、御堂の方に向きて、  「観音助けたまへ。」 と申しければ、ひとへにこれその故なりとなむ思ひける。  忠明が語りけるを聞き継ぎて、かく語り伝へたるとや。                                   (巻十九) 戻る