京都大医学部付属病院生体肝移植500例目
京都大医学部付属病院で、500例目の生体肝移植が行われる。1990年の第一例目以降、積み重ねた実績が評価され、京大方式の手術は海外にまで普及している。移植後1年目の生存率は80.2%、5年後でも78.6%と、欧米の脳死移植を上回る好成績を上げている。顕微鏡を使って小さな血管を縫い合わせる「顕微手術」をいち早く取り入れるなど、つねに最先端の手術方法を追究してきた成果だ。500例もの生体肝移植を実施した施設は世界でも例がない。医療費の負担は少しずつ軽減されてきたが、移植を受ける患者の対象範囲が広がりつつあることには懸念の声もある。患者・家族への心理的ケアなどの課題も残っている。
現在国内で27施設が生体肝移植を手がけているが、その大半は、京大病院移植外科の田中紘一教授らが京大方式の手術を指導してきた。欧米でも近年、脳死者からの臓器提供者の不足から生体肝移植が増え、同外科には海外からの研修医が数多く来ている。田中教授自らイタリアや韓国へ渡航して指導するほか、インドネシアやエジプトからは京大で移植を希望する患者もおり、生体肝移植の世界的なセンターとなっている。「生体肝移植は、脳死移植実現までの『つなぎ』ではなく、別の選択肢として定着させる」ことが、京大病院の当初からの目標だったが、それが見事に達成されつつあるといえる。
スタート当時、教授だった小沢和恵・滋賀医科大学長は「生体肝移植は必ず医療として定着すると確信していた。京大に多くの患者が訪れるようになったことが一番うれしい」と話す。
手術費は原則として自己負担で、患者の負担軽減が切実な問題だった。92年には特殊な医療技術を対象にした「高度先進医療制度」が小児患者に適用され、自己負担分は移植手術費など約330万円になり、制度の対象患者は徐々に拡大。98年4月からは保険が適用されることになり、患者の負担は治療費の2〜3割にあた200万円前後にまで軽減された。
しかし、成人の肝硬変や劇症肝炎の患者は、いまだに保険適用から外されており、「個人差はあるものの、移植患者で約880万円、臓器提供者で約76万円かかる」(同病院)という。
京大病院の生体肝移植は当初、親から小児のケースに限って行われていた。健康な提供者の体にメスを入れる点などへの批判が根強かったためだ。体の小さい小児なら親から摘出する肝臓も小さく、親の体の負担が軽いうえ「親から子への命の贈り物」として倫理面でも容認されやすかった。
ところが、100例近い実績を積んだ93年から、移植の対象者は次々に拡大された。現在では、成人同士の兄弟姉妹や夫婦間の移植もごく普通に行われるようになった。移植の必要な患者は成人のほうがはるかに多いのに、日本で脳死移植がなかなか実現せず、他に救命の方法がなかったためという。「現在、京大で移植を希望する患者は成人4人に小児1人の比率」(田中教授)になっている。
こういった移植対象の拡大には危ぐも残る。京大・医の倫理委委員会の日合弘委員長は「夫婦間などでは提供を強制される懸念があるので、本人の意思で提供するのか、今後も注意深くチェックしたい」と話す。
京大病院の生体肝移植は好成績を誇るものの、手術後、強い拒絶反応などで再移植が必要になったケースでは、生存率が40%台と低い。劇症肝炎のように緊急に手術せざるを得ない場合も成績が悪く、移植スタッフを悩ませている。
患者や家族の心理的なケアも課題として残されている。京大病院では、患者・家族への連絡・調整は臓器移植医療部の移植コーディネーターが担当しているが、移植患者が増えればスタッフの充実は欠かせない。また、欧米の病院では、移植前後の心理ケアは専門のカウンセラーが担当する。日本の移植施設にはそういったシステム自体がほとんど無く、国の医療制度全体の見直しを含め、対策が求められている。
1999年9月10日/京都新聞
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